2013年3月10日日曜日

酒が語る日本史

先日、歴史学者でもある和歌森太郎氏が書いた「酒が語る日本史」という本を見つけ、買って読みました。40年くらい前に出された本で、食通で知られる佐々木久子氏が主宰する“酒”と言う雑誌に連載されていたものをまとめた物だそうである。

酒を切り口に、古の歌人ややんごとなき方を手始めに、明治維新の元勲に至るまで、歴史を彩った英雄達の酒豪ぶり、あるいは庶民の慎ましやかな酒との付き合いを、記したものである。

先人達は、日記などの形で、自分や友人などの酒豪ぶりをせっせと書き記していたようで、元々は“ハレ”の日にたしなむものが、いつも間にか人と語らう場へ、宴の場へと酒を取り巻く様相は変化を見せる。
ときには、幕府転覆の謀を企む場でもあったようである。

また、意外な人物が酒とは縁がなかったりと、なかなかおもしろい読み物である。

さて、その登場人物の中に、「大伴旅人」という歌人が出てくるのだが、彼は万葉集にも70数首の歌が収録されているほどの歌人であり、有名な人なのであろうが、実はこの本を読むまで、全く知りませんでした。

その万葉集には、「酒を讃える十三首」という詩が収録されており、それだけでも相当の酒付きであったのではと思わせる。


-太宰帥大伴の卿の酒を讃めたまふ歌十三首(338)
  験(しるし)なき物を思はずは一坏(ひとつき)の濁れる酒を飲むべくあらし(339)
  酒の名を聖(ひじり)と負ほせし古の大き聖の言の宣しさ(340)
  古の七の賢(さか)しき人たちも欲(ほ)りせし物は酒にしあらし(341)
  賢しみと物言はむよは酒飲みて酔哭(ゑひなき)するし勝りたるらし(342)
  言はむすべ為むすべ知らに極りて貴き物は酒にしあらし(343)
  中々に人とあらずは酒壷(さかつぼ)に成りてしかも酒に染みなむ(344)
  あな醜(みにく)賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む(345)
  価(あたひ)なき宝といふとも一坏の濁れる酒に豈(あに)勝らめや(346)
  夜光る玉といふとも酒飲みて心を遣るに豈及(し)かめやも(347)
  世間(よのなか)の遊びの道に洽(あまね)きは酔哭するにありぬべからし(348)
  今代(このよ)にし楽しくあらば来生(こむよ)には虫に鳥にも吾は成りなむ(349)
  生まるれば遂にも死ぬるものにあれば今生なる間は楽しくを有らな(350)
  黙然(もだ)居りて賢しらするは酒飲みて酔泣するになほ及かずけり(351)


いかがです。結構味わい深いものがありませんか。

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